模範解答しなかったHさん
2024/08/30
👉「生活づくりのパートナーを目指す」:「私たちスタッフは、画一的な支援にならないようにしながら、お一人ひとりの『生活づくり』をお手伝いしてまいります」と、ご家族や利用者の方に説明しています。そして、利用者が各々他人と比較したり競ったりするのではなく、一人ひとりの精神的な自立(生活づくり)が目標となる。比較することが許されているのは、以前の自分、過去の自分に対して現在(今日と言う日)をいかに感謝できるか、です。
👉模範解答しなかったHさん
利用者は、要介護認定を受けたことを証明する「介護保険被保険者証」を持参しています。認定の有効期間満了が近づくと、認定調査員による更新認定のための聞き取り調査がホームで行われます。最初に家族、次に施設担当者、最後にご本人という順です。私がHさん(78歳・女性)の聞き取りに立ち会った時のこと。質問調査の目的がHさんに説明された上で、調査員が尋ねました。
―「Hさん、お誕生日とお年(年齢)を教えてください」。
―「何でそんなことを聞くのよ、調べたらわかることでしょう。失礼しちゃうわネ。プライドを傷つけられた わ…」とHさん。
―「大変失礼いたしました。お気を悪くされたら赦してください。Hさんがお住まいになっているここは、何というところですか」。
―「何でそんなことを聞くのよ、調べたらわかることでしょう。失礼しちゃうわネ。プライドを傷つけられた わ…」。
Hさんが退室した後、同席していたご長男の青ざめた表情を察したベテラン認定調査員が意外なことばを口にし、張り詰めた空気が一変した。
「これまで数え切れないくらい大勢の方を調査してきました。皆さん、立派に『模範解答』をしてくださいました。そのため、後日改めて、ご家族に電話でもう一度お尋ねしなければならないのです。Hさんも、息子さんやホーム長さんが同席された中で、普通なら模範解答してくださるところなのに、ご自分のお気持ちを率直に答えてくださいました。それは、このホームで抑圧されることなくお過ごしになっているからなのでしょう。Hさんにとって本当に幸せなところにお住まいなのだ、と安心しました」。
ご長男の目が潤んでいました。私も、基本理念である「確かな支援技術に基づいた、心に触れる優しい支援の実践」が、このような形でHさんの中に形成されつつあることを目の当たりしました。
余談:現在、第一ホーム入居女性のお一人は「認定調査員」の母親。
(2024.8.30)
NPO福音の園・埼玉 理事長 / グループホーム福音の園・川越第二 管理者 杉澤 卓巳